8月某日 内川ダムー夕霧峠ー南砺市郊外ー国見ヒュッテ 合計100kmくらい
僕は英語塾を運営し、そこで自ら英語を教えている。ひとりの従業員もいない、完全ワンマン塾。同僚も上司も部下もいない。生徒は40人くらい。小学1年から大人まで多種多様だが、主に小中高生を中心に教えている。
この夏は忙しかった。個別の夏期講習を入れてしまったせいで、午前中も週に3回教室に通うことになり、生後7ヶ月になる娘の世話も含めて激務になった。妻もフリーランスの編集と娘の世話で激務となり、コロナの自粛で夫婦のストレスはつねにマックス状態。やっと取れた休みの日、バイクで出かける直前に妻と激しい口論となる。
涙の出発。
この日は内川ダムから獅子吼に抜けるコースをGoogle Mapで確認してから、足を踏み入れたことのない内川エリアへ。途中から森がモリモリしてきていい感じだったが、ダムの手前で係員が怖い顔して近づいてくる。
「どちらまで?」
「獅子吼を通って鶴来まで行こうと思うんですけど」
「あー、申し訳ないけど、橋が工事で通行止めなんで、行けないんです」
「はー、まじすか。じゃあ引き返します」
「未舗装の林道通れば行けますよ」
そんなこと言われても未舗装のソロ林道なんて絶対に無理。
そんなわけで引き返してきた。
引き返す途中、Black Boarというオフロードサーキット場があったので、視察の意味で立ち寄ってみたが、そこには本格モトクロスレーサー3人が自分たちのバイクをハイエースの前でいじっていて、僕はほんとにビビってしまった。おしっこちびりそうになるくらい怖かった。オフロード初心者がフルノーマルのバイクに乗ってよちよちとやってきたようなものだ。彼らの視線は冷たく見えたが、あえて声をかける。「受付ってどこですか?」「スタッフは今コース整備してていないよ」「ちょっと見学していってもいいですか」「いいよ」
遠目から土のサーキットを眺める。まるで別世界。この世界には足を踏み入れたことのない未踏の惑星がわんさかとあるのだと実感しつつ、サーキットを後にする。
そしてまた夕霧峠。林道情報が圧倒的に不足しているオフロード初心者の僕だった。
夕霧峠からイオックスアローザに降り、そこでゲレンデの中腹あたりの道路でバイクを停めて昼ごはんを食べようと思ったが、急な坂にバイクを停めることがマジでむずかしいことに気づいた。倒れそうになるバイクに最後は飛び乗って泣きながら坂を下り、チキンな気分でアローザの麓のロッジ前で、ゲレンデに流れる変なBGMを聞きながらリュックに忍ばせておいたコンビニのサンドイッチとおにぎりをひとつ頬張った。気分は沈んでいて何をしても景色はブルーだった。実際はとても気持ちよく晴れてはいたけれど。
いつもの通い慣れた27号線を通って金沢に向かう途中、医王山の登山口の看板を発見し、バイクで突入してみた。対向車が来たらバイクでもすれ違いがしんどそうな細い峠道をひたすらのぼると国見ヒュッテという景色のよいところに出た。初老のご一行が駐車場でピクニック飯を食べている以外他に人はいない。砺波平野の田園風景を眺め、そろそろ帰ろう。
また夕霧峠に出て、そこからはずっと下り。途中池のほとりのベンチに寝転んで、終わり行く夏の空をぼんやりと眺めたり、少し眠ったりした。そういえば今から何十年も昔、まだ20歳を過ぎたばかりの頃も、こうしてバイクで出かけては行く当てもなくベンチに寝そべって空を眺めていたっけか。今は帰るところがある。どんな顔して帰ればいいのかわからないけれど、とりあえず帰ろうと思った。
さて、写真ダイジェスト
ここでキャンプしたら静かでいいだろうな。星がきれいだろうな。クマが怖いだろうな。
県立公園医王山とバイク。
Black Boar
眺めた空
オフロードはコケるの前提らしいので、ちょっとずつカスタムしてます。
転んでバイクに挟まっても大丈夫なオフロードブーツも買ったし(妻からのご褒美金で購入!)、可倒式のバックミラーにも変更した。あとは林道の悪路を走破するテクニックをどう磨くかだ。一人で林道でトラブったらそれはひどく怖いことだろうな。未踏の惑星は、怖くてワクワクする場所だった。次はどこに行こう?